【アート】森美術館の戦略より、アートビジネスの課題を探る

「美術館のグローバル戦略」

森美術館長のグローバル戦略講義を受けてきた。
「美術館のビジネスモデルとは?エンターテイメントと国・文化政策の中間地点にいる美術館はどうあるべきか。」
という自分の問いがあって、答えのヒントをもらえるのではないかと受けた講義。

一言で言うと、経営理念はあっても戦略はなかった。
実験的展示会=自称先端芸術を出し続け、来たい人が来れば、というスタンスで、それが「芸術だ」と美術館ミッションと芸術論を語っておられた。

日本人的観点から優れた芸術は出せたとしても、「美術館」という立場のミッションを持つ団体としては、欧米に劣り、アジアの他国に抜かれるだろう、というのが講義の印象。
つまり、日本の美術(=ものづくり)は世界トップレベルで、高い評価を得ているのだけれども、モノだけでは売れないのであって、戦略(流通やマーケティングなどの人に伝える方法論、金を稼ぐ仕組み)が無いから先行き不安なのである。
企業でいえば、「ビジョン」があって、「ミッション」があって、中期経営計画がなく、その下の事業計画、マーケティングプランすらなく、いきなりアクションプランに飛んでしまっており、どのような文化、メッセージ性を出していくかというクリエイター視点のプランニングだった。
それは「文化」「芸術」で片づけてしまえば都合が良い。曖昧で抽象的な領域だから。具体的な方法論がなくとも、やってみないと分からないという結果論で流せてしまう。

ちなみに館長はThe感性!!
年功序列の日本人の偉い人にはよくあることだが、質問への回答が説法に入れ替わってしまった...)

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講義の内容は、「美術館のグローバル戦略」。

将来を見据えた戦略ではないものの、民間美術館経営のポイントは3点。
「時代性」、「ユニークコンセプト」、「場所」が現代美術館の成功要因であると館長は述べている。そのポイントに従って、私も意見を記述したい。

①「時代性」/「ユニークコンセプト」 →何を
②「場所」              →どのように
加えて、
③「ターゲット」           →誰に



①何を?(時代性/ユニークコンセプト)
森美術館の商品は、とってもアバンギャルド。実験的で、先進的なのは誰もが知っていることだろう。
森美術館のアート関係のネットワークはとても強くて、色々政治的要因もあると思うのだが、現在のモノはとても魅力的。
コンセプトもユニークで、独自性も強い。

だけども実験的がゆえ、お客さんに分かるのかしら?という疑問もある。
つまり、「何となくすげえ」商品。


②どのように?(場所)
森ビルのビジネスモデル自体が、「ユートピア」的発想の元作られている。つまり、それだけで生活が成立する空間。
(ビジネスエリア、ホテル、居住エリア、ショップ、シネマ、美術館、展望台、スーパー、アメリカンスクール、スーパーが存在し、小さな都市を作る)
その小さな都市の中での芸術としの美術館は、ユートピアの根幹を作るのではなく、その都市の付加価値であって、森ビル視点では人を誘致するプロモーションとして利用されているわけだ。
実際に、展望台とセット販売されており、現代アートもそのエンターテイメントに組み込まれ、観光の目玉となっている。つまりは森ビルの戦略の1部(クロスマーケティング)なのである。

そうなってくると、気になるのがターゲット。
その流通チャネルに、森ビルの提供する商品にふさわしい顧客が来ているのだろうか。



③誰に?(ターゲット)
森ビルのユートピア空間に住む人間は限られているだろう。なので居住者の利用者は少人数で、彼らの来場だけで運営はまかなえない。
とすると顧客の大半は、継続的利用ではなく、即日的利用がメインの人々だ。
六本木のあの空間に行っていつも思うのだが、観光客がとっても多い。
東京観光の目玉として宣伝もされており、前述のセット販売がよく売れるのも納得。


・ターゲットのずれの問題
そうなると、アバンギャールドな商品は誰に届くのだろう?
観光の目玉となってしまった、「前衛」がウリの芸術は、理解ある人に届けられるのだろうか。
館長曰く、実験的展示会=自称先端芸術を出し続け、出来るだけ理解ある人を選別したいと言っていた。
となると、今商品ターゲットと、実際のターゲットとの間にずれが生じているのである。

というかそもそもそういう芸術は、すべての人に開かれている必要があるとか無いとかという論点もある。
特に民間の美術館は、自社の生き残りの為にきれい事なんて言ってられないだろう。
であればなおさら、ターゲットの見直しが必要である。


・ファンドレーシングの問題
民間の美術観を支える収入源は、入場料とパトロン的メンバーの支援だ。
もちろん森美術館にもメンバーシップがある。
しかし普通年会費2万円という高額メンバーシップ。
その恩恵は、どの程度か。ぱっと見た限りそれほど魅力的でもない。
現在の顧客内訳が観光客なのであれば、メンバーシップ収入は見込めず、入場料収入に頼らざるを得ない。

ちなみにアメリカではメンバーシップへのちゃんと奉仕している。
グレードがあり、最上位ランクに関してはVIP対応を行っている。
日本はまだまだ、アートマネジメントが口だけなのだ。


・顧客獲得としての競合
ターゲットがずれており、今のターゲットに対して適切なアプローチが出来ていないという課題が分かった。
もう一点、競合の視点で見た場合、どうだろう。
前衛過ぎないが、似たような商品カテゴリを扱う、新国立美術館

観光客メインで取り込むのであれば、新国立美術館の方が立地上、優位だ。
1:駅近。開かれた空間。つまり訪問コストが小さい
2:広大な展示スペース。休憩スペース。つまり訪問中メリットが大きい

この美術館も、連日多くの観光客/都内在住者に利用されている。
(私もよく行く。何てったって駅近。)

また一昔前は六本木ヒルズが中心のごとく栄えていたが、今では近くにミッドタウンという新しい観光スポットも誕生している。
つまり競合の参入が多く、難しく文学チックに言うと、六本木界隈の観光市場には魑魅魍魎が跋扈している。
一応観覧割引もしているみたいだが、せっかく東京に出てきたのであれば、よっぽどの好き者でない限り美術館ばかり行ってられない。

なので前述の「場所」のメリットはあれども、競合の参入により、六本木ヒルズ自体の共倒れというリスクを鑑みる必要はあるだろう。他にもミッドタウンのような新しい観光スポットが近くに誕生した場合、ユートピアが廃れる衰退する可能性は十分あり得る。
そうなった時の、そうならない為の対応を、ユートピアと協同して考えているのだろうか?

現に六本木に入っていたライブドア、リーマンが抜けた後の森ビルの評判は悪い。
GSも移転節が出た。初台のとあるビルの上の階と比べて家賃は低い部屋もある。
兆しはある。そうなってからでは遅いのだが、まだ設立当初の繁栄を引きづっているのだろうか。
ブランドはいつかは衰えるということを念頭に置いてほしい。
常に先端で有り続けるには、常に最新の努力を続けなければならない。惰性にならぬよう、必要なのが戦略であるのにそれも無い。

おお。きょうは辛口だ。



その他
・グローバル戦略
課題として認識されておられたので記述。
日本の美術館のグローバル戦略が弱い理由として、日本のPR力が無いという事。つまり英語を使いこなせる人材がいないのだ。
その課題認識があった森美術館は、オープン時にプレスリリ―スを英語でまくということを実施したそうだ。NYのPR会社を雇用して。
また海外の著名人とのネットワークを張り、外部講演を委託し、彼らのBuzz効果を狙っている

一応グローバル戦略、というよりもグローバルにプロモーションは行っているようです。
だが、それって戦略?

情報発信として、PR戦略だけでグローバル戦略は語れるのか?
また共同展示会をやっていると仰っていたが、それグローバル戦略?
商品のグローバルなコラボってことでしょう。

MOMAのように、物品販売をグローバル展開とかまで考えないのかしら。
収入源を求めて、ビジネスとして運営していかなければならないのだよ。
グローバルって、市場が広がるってこと。国内市場の戦略と同様に、他の市場にどのように攻め行くか考える事が戦略だろうに。


・公共性とビジネス
マーケティング・経営的視点で話を聞いていたから良くなかったのかだろうかなあ。だから今日は辛口。
国、文化として芸術は発展するミッションを持つ領域であるとすれば、「ビジネス」とか「金」という言葉は嫌われる傾向にある。

文化とビジネスは分けて考えるべきって、それ誤解!
経済的視点を文化政策にも取り入れろってことなのだ。

だが国立のように、公共性の観点から見た場合の美術館のミッションとはどうあるべきか。
また森美術館のように民間は、エンターテイメントビジネスとして成立すべきであはるが、どこまでいやらしくなくそれ
を実施することが出来るのか


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つらつらととりとめも無く書いてしまった。
まとまりないので、後日、校正できればまとめ直したい。
本も取り寄せたし。

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

現代アートビジネス (アスキー新書 61)

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