【独り言】ハワイへ飛び立つ車イス③

おそらく最後のハワイの旅は、あっというまに、おしまい。
車イスご一行様は、さっさと帰国してしまいましたとさ。


旅程が違う私は、1日おくれての帰国となり、久しぶりに一人で羽を伸ばすこととなる。
ホノルルマラソンに出場した経験を持つ私は、ハワイは2週間くらい滞在して、ずっと走っていたこともあった。
だから、異国の地に立った感動は特にない。
iPodで落語を聞きながら、数年ぶりにハワイを走りながら考える。

待ち望んでいた一人の時間は、さっきまでの照れくさい騒々しさを失い、少し沈んでいた。
その久しぶりのぬくもりを失い、常夏の国での一人の世界、そこに落語の違う世界が飛び込んできて、混乱気味になる。

自然の中でマイナスイオンを浴び、考える。
「なんでハワイにいるのかなあ。」
自分の意志でここまで来たが、それは責任や義務としての意志であって、本心ではない。
もし自分の休暇があれば、ハワイになんて来なかった。

「家族」のパーツを為すということは、育ててもらった恩か?
その気持ちの為に、この休暇時のハイシーズンに、直前の思いつき旅行に無理に参加させられて、チケットだけで十数万はたき、上司の嫌みに耐えながら、たかだか3泊という期間を共に過ごすのか。
おそらく最後、だと思えなければ来なかっただろうか。
後悔しない為の行動なのだろうか?
価値を見いだしながらも、価値を換算する、サラリーマンの自分がそこにいた。


海岸沿いにさしかかった時、小雨が降りはじめていた。
前日までは晴れ続けていたハワイが、雲に覆われ表情を変えていた。
肌にあたる冷たい小雨の心地よさと、植物の匂いを吸い上げた湿度の重さを感じつつ、走り続ける。

ふ、と目線を遠くへ向ける。
そこに虹が出ていた。

以前滞在していた12月のハワイは雨が多くて、虹なんてしょっちゅう見ていた。
けれども、今回の旅では、前日までは晴天で、見る事は一度も無かった。

「ハワイの虹が見たい」
と言った父は、虹を見る事なく帰国した。
終に虹を見る事ができなかったのだろうか。リベンジとして、今よりも衰えた体でまたこの地に戻るのだろうか。

輪を描くことはない四分円の虹はいつまでも消えることはなかったが、物悲しく儚く、どこか違う世界へつながっているような、そんな虹に思えた。


振り回された3泊4日。
車イスご一行様は、真夏のハワイにおりました。
もはや価値観も違う4人が、血のつながりだけで、集まった。
特別もなければ、展開も想像の範囲内。
たまに会って、自分の出生を振り返ればそれでいい。
深い絆なんて建前で、本心とは違うけれども、けれども無くしたくはない。

辛うじて楽しかった。
そして、あっというまに、おしまい。
家族なんて、そんなもん。