【映画】「明日泣く」ために、当夜酔おう

「明日泣く」

今年鑑賞した映画の中でも上位にくる。とても観心地のよかった作品。
色川武大・原作。監督・内藤誠。昭和情緒溢れる物語を本場のジャズで彩り実写化。

高校時代から自由奔放に生きるキッコを目で追ってしまう主人公・武。武も自由を求めては独り小説を書き、自由を賭けて賭博に没頭していく。「私は私がしたいことをする!」と言い放ち、荒削りながらも前進していくキッコに、武は嫉妬し気にかけずにはいられなかった。だがキッコの自由を得るための現実への抗いは、実はキッコの「強がり」だったのだ。
現実の欠けてしまった部分を嘘(理想)で補い、それを自分の自由とする。そんな痛々しくも力強く生きるキッコに、武は何も言うことはなかった。
強がり、もがきつづけるキッコは、武の自由の象徴だったのかもしれない。

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観心地がよい。なにが良いのかって、安心して「酔える」のよ、この映画。

①原作がよいから安心して展開に酔える。
原作がしっかりしているせいか、脚本も安定。安心して観られる。
カメラワークも安定。俳優陣の演技も安定。テンポよい展開。

②主題である「自由」って難しいよな、でもいいよなって酔える。同じ映画館で上映中されているサルトルさんも言っているように、
「人間は自由の刑に処されている」
人間いつだって自由に生きられる。けれども、自由だからこその足枷もあり、簡単には飛ばせてくれない。それなりに代償払うんだけど、それでも理想を見つめて、「私は私のしたいことをする!」と言い放つことの爽快さよ。

③ジャズに酔える映画のテーマの象徴なのだけども、(「ジャズ=即興演奏=自由」)ジャズの演奏にフォーカスしてる映画ってなかなか無いから、
非常に心地よかったです!酔えたー!!
勝手にしやがれ」のリーダー武藤昭平さん、しっかり酔わせていただきました。

④行間に酔える映画を観ていたけれども、小説を読んでいるようだった。なぜなら行間が映像化されていたから。
何のことはない、幕間の余韻なのだけれど、うまいんだよ。絶妙なテンポで映画に引き込んでくれるし、意味深で心象表現ともとれる。
編集・富永昌敬。

ハイボールも飲みたくなります。
ちなみに上映後のトークショーにも参加したけれど、監督・内藤誠と編集・富永昌敬、あと本作に直接関係は無いけど、「SRサイタマノラッパー」の入江監督は、日大芸術学部の子弟関係なのだそう。


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・「明日泣く」というのは、どういう意味なのだろう。
①「明日、泣きを見る」のはわかっているけれども、好き勝手するわ。
ともとれるし、
②「「明日泣くわ。」だから今日は明日を忘れて好き勝手やるわ。でも「明日になったらまた同じことを言う」けどね」
ともとれる。

前者は、リスクを顧みずに前進する、という意味合い。
後者は、遠回しに絶対泣かないと言っている前向きな表現。
おそらく映画では前者の意味で使われている。だけど閉塞感漂う現代には、泣くのは決して来ない明日にとっておく、というポジティブさが必要な気がする。