【人】Steve Jobs×吉田兼好 禅の思想

アップルの会長、Steve Jobsが亡くなった。

アップルがSteveを神格化しているとはいえ、彼のカリスマ性は凄い。
以下、スタンフォードの有名な卒業演説より抜粋。

①「connecting the dots」 
点と点をつなぐこと。

異業界、異質の事物を上手くつなぎ合わせる事で、革新が起こる。
先人の知に勝るものを創るには、先人の知を受け継いだ上で、
自己の知や他人の知を組みあわせ再構築することだろう。

事業確信、経営革新をしたいならば生物学を学べとか、どこかで聞いた言葉だ。
Facebookも、発想は先人の知を引き継いだ二番煎じだったが、
そこに自己の知(クローズドポリシー、大学からのターゲティング)、
他人の知(Apps)を加えながら拡張し続けている。

言われる根本はSteveの見いだす真理だと思う。
点と点をつなぐこと。


②「Death is the most important tool to help me to make the big choices in life.」
死を自覚していることが、人生の選択を後押しする

「"If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?" And whenever the answer has been "No" for too many days in a row, I know I need to change something.」
(もし今日が最期の日であるならば、今日やろうとしていることをするだろうか?もしNoならば、何かを変えなければならない)

「almost everything ― all external expectations, all pride, all fear of embarrassment or failure - these things just fall away in the face of death, leaving only what is truly important」
(死を前にしたならば、外部の期待やプライド、失敗をして恥をかくことの恐れ、ほとんどが無意味であり、本当に大事なものだけが残る)

「Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma 」
(人生は限られている。他の誰かの人生を生きることで自分の人生を浪費しては行けない。ドグマ(他の誰かの意見)に捕われてはいけない)


③「Follow your heart and intuition」
自分の内なる声に従え

「the only way to do great work is to love what you do. If you haven't found it yet, keep looking. Don't settle. As with all matters of the heart, you'll know when you find it. And, like any great relationship, it just gets better and better as the years roll on. So keep looking until you find it. Don't settle.」
(すばらしい仕事をする秘訣は仕事を愛することだ。もしまだそれを見つけていないのであれば探し続けなさい。落ち着いてはならない。その時がくれば分かるから。大恋愛と同じように、仕事も年を経るごとに豊かになっていくものだから、決して見つけるまで探しつづけなさい。決して落ち着いてはなりません。)

most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.」
(大事なことは、自分の心と直感に従う勇気を持つ事。既に自分が本当は何になりたいかを、心や直感は知っているのだ。それ以外の事は重要ではない。)

「Stay Hungry. Stay Foolish.」


Steveは禅や仏教に興味があったと言われているが、確かに自力本願や、死の有限性の理解という点で通じている。
それは今日死ぬと思って毎日を過ごさなければ、と思っていた日本人の自分が、彼の言葉に共鳴できる理由でもある。

また兼行法師の一節に通ずるものである

道人は、遠く日月を惜しむべからず。たゞ今の一念、空しく過ぐる事を惜しむべし。もし、人来りて、我が命、明日は必ず失はるべしと告げ知らせたらんに、今日の暮るゝ間、何事をか頼み、何事をか営まん。我等が生ける今日の日、何ぞ、その時節に異ならん。一日のうちに、飲食・便利・睡眠・言語・行歩、止む事を得ずして、多くの時を失ふ。その余りの暇幾ばくならぬうちに、無益の事をなし、無益の事を言ひ、無益の事を思惟して時を移すのみならず、日を消し、月を亘りて、一生を送る、尤も愚かなり。
(「徒然草吉田兼好 百八段)

月日を惜しんでいる場合ではない。この瞬間が過ぎ去って行くことを惜しみなさい
もし明日あなたの命が終わると告げられたら、今日この日に、自分が何を求め、何を思うか考えのか。
今生きている一日が、日常を過ごす様々な理由で浪費されている。
残った僅かな時間を、無意味に行動し、無意味に語り、無意味な空想して一日、一月を消し去り、一生使いきったとすれば、
最も愚かだ。


意訳だが、上記のように時間(命)の有限性を述べたもの。

難しいことに、いくら死の有限性を意識したところで、体が元気な内はすぐにそれを忘れてしまう。
誰かの死を体験すれば、それが現実的な単なる事象として過ぎ行く儚きものであると、理解することは出来るだろうが
自身の内部に潜む死を日々自覚するには、それなりの事実が必要になってくるのではないか。
Steveのように、身を以て死にゆく過程を体験することだ。

幸い私の場合は、命ではないが体の有限性を自覚している。
それが焦燥感にならぬよう、生き急いでしまわないよう気をつけなければならないが。


新訂 徒然草 (岩波文庫)

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追記。
三島由紀夫葉隠れ入門」にも同じ思想が。
他にもちょくちょく同じ粗相を目にする。
禅や仏教の、基本的な考え方なのね。
諸行無常